永遠の名勝負

ジャッカルの日  2005年06月10日
ファイアフォックス  2005年06月08日
ティンカー・テイラー・ソルジャー・スパイ  2005年06月05日
もっとも危険なゲーム  2005年06月03日

2005年06月10日

ジャッカルの日

ジャッカルvsルベル警視

ジャッカルによるドゴール暗殺計画を察知したフランス政府首脳部は、そのいっさいが秘密に包まれているジャッカルの正体を探るため、フランスでもっとも有能な刑事、クロード・ルベル警視を抜擢する。ずんぐりした小男で地味な風采は、漫画で描かれる恐妻家のイメージにぴったりなのだが、うわべとは裏はらに、狡猾な頭脳と、いかなる挑発や脅迫にも屈しないしたたかさを秘めていた。司法警察本部に戻ったルベルは、ジャッカルの本当の名前と写真を入手するため、イギリスはじめ七ヶ国の殺人課のチーフに協力を求める。狙いは、世界の元首クラスを専門に暗殺するプロの殺し屋を探すことであった。

一方、ジャッカルは、暗殺の痕跡を残さずに仕事をするため、極力自分の手でことを運ぶ主義である。ドゴールの回顧録はもとより大量の記録文書や著作物から役に立つ情報を引き出し、明敏な頭脳に記録する。そして、いつ、どこで、どうやって狙撃するのか? その答えを引き出したのである。彼はまずロンドン近郊の墓地へ行き、死亡した人物の名前を使ったパスポートを偽造し、他にも複数のパスポートを準備した。またベルギーのプロには特別製の狙撃用ライフルを発注、各種の身分証明書も整え、フランスの潜入先となるミラノへと向かう。

ドミニカのトルヒョ将軍暗殺事件にからんだと見られるイギリス人の噂をもとに、死にもの狂いの捜査を尽くしたスコットランドヤードは、ついにジャッカルの英国内での生活を探り当て、カルスロップ名義のパスポート写真と足取りの詳細をルベル警視に報告する。ルベルは、間髪をおかず全フランス中に極秘の捜査網を張りめぐらし、ジャッカルの入国を阻止する構えに出た。しかしジャッカルは、報告とは別のパスポートと見事な変装姿で官憲の目を欺き、マルセイユから中央高地へゆっくりと北上してゆく。殺しの予定日にはまだ間があるのだ。地方町ガップの牡鹿荘に宿泊した彼は、旅行中の美しい男爵夫人コレットとの情事さえ楽しむ余裕があった。

だが捜査ブレーンの一人サンクレア大佐の情婦(OASのスパイ)から、捜査の進展情報を逐一受けとっていたジャッカルは、現在の偽装も暴かれてしまったことを知り、車を新しく塗装し、ナンバーを付け変えて、すぐさま牡鹿荘を発つ。警官隊の急襲はまたしてもタッチの差でかわされたのである。

彼は、執拗な追跡の目をくらますための潜伏先として、コレットの家を訪れる。だが夫人にも正体を知られたジャッカルは、容赦なく彼女を殺し、今度はデンマークの牧師に変装して、列車でパリに入った。

ドゴールが公衆の面前に姿を現わすパリ開放記念式典の当日。厳しい警備の網をくぐり、アルミ製の松葉杖をつき、よれよれの軍用外套を着た一人の老人が、凱旋門を見下ろす建物の一角に着く。ジャッカルだった。

果たしてルベルは、ジャッカルを阻止できるか?

フレデリック・フォーサイス著
「ジャッカルの日」角川文庫

2005年06月08日

ファイアフォックス

ミッチェル・ガントvsドミトリ・プリャービン

ミッチェル・ガントを主人公とする三本の作品に、敵役としてKGB将校ドミトリ・プリャービンは一貫して登場する。

しかし、一作目の『フィアアフォックス』に登場したプリャービンの存在は、思考誘導システムを搭載したミグ31を強奪するガントの活躍に比べて、そうとうに影が薄かった。その時点での彼は、ミグ31の<ミコヤン計画>の機密保持を担当する“M”局局長の部下で、ソ連国内スパイの動向を監視する役目を堅実に果たすというステロタイプ化されたKGB中尉でしかない。けれども潜入したガントにいち早く着目し、その正体と目的を探らんと中央記録コンピューターを駆使してガントを割り出してゆくさまにはタダ者ならぬ気配もうかがえる。だがいかんせん後半戦の大部分は、冒険小説ファンの間ではもはや“伝説”にまでなったガントの空中での戦いが主体となるため、プリャービンの出番はなく、“5回半ばで降板させられたドラフト2位の新人投手”といったヒアイも漂うのであります。

しかし「ガントはまだ飛んでいた!」という読者の意表を突いたイントロで始まった続編『ファイアフォックス・ダウン』に恋人のアンナとともに登場したプリャービンは、その人間的な味わいにおいて、ある意味ではガントを凌ぐほどの活躍を見せるキャラクターに大きく成長する。

フィンランド領に不時着したミグ31を凍結湖に隠し、必死の脱出を計ったガントだったが、追跡してきたソ連軍に捕えられモスクワのKGB研究所へと送られた。その尋問にあたったのが、前夜の失着にも関らず大佐へと昇進したプリャービンである。日夜繰り返される厳しい拷問と尋問。しかしそれに耐え抜いたガントは、わずかな隙をついて研究所を脱走し、潜入時に協力してくれた工作員の手引きにより、アンナとともにレニングラード行き特急列車で脱出することになる。KGB大佐の恋人アンナは西側の協力者でもあったのだ。だが出発直前のモスクワ駅で、アンナは、監視任務に就いていたプリャービンと偶然出会ってしまう。不審に思いながらもしばしの別れを惜しむプリャービンは、立ち去る列車に向けて手を振り続けたが、アンナと同行する車窓の中の男の顔を見た瞬間、それがガントの変装であることを見抜いた。愛する恋人を告発することなく、宿敵ガントも生きたまま捕えなければならない。そのジレンマを抱えたまま、プリャービンはKGB本部に秘して単独で列車を追うのであった。

二人の対決は三作目『ウィンターホーク』へと持ち越される。今度のガントの任務は、冷戦停止をヨシとしないソ連軍部の宇宙支配計画を探るため再びソ連に潜入するというものである。一方その陰謀を別の角度から察知したプリャービンは、軍部の企てを阻止するとともに、ガントとの決着ものぞむという獅子奮迅の活躍ぶりで、読者を堪能させる。

クレイグ・トーマス著
「ファイアフォックス」「ファイアフォックス・ダウン」ハヤカワ文庫
「ウインターホーク」扶桑社ミステリー

2005年06月05日

ティンカー・テイラー・ソルジャー・スパイ

ジョージ・スマイリーvsカーラ

スマイリー三部作を通底するスマイリーとカーラの対決の始まりは、一作目『ティンカー・テイラー・ソルジャー・スパイ』によると、遠く1955年のインドにさかのぼる。ソ連国内で何度目かの粛清の嵐が巻き起こっていた冷戦初期、まだ、一工作員にしかすぎなかったカーラは、アメリカでの活動に失敗し、今しも本国送還を待つ囚人として、気の狂いそうな暑さのデリー刑務所内にいた。ちょうどその頃、帰国をおそれ離脱を考えている将校クラスの情報員に、再就職の話を持ちかける役を務めていた英国情報部員のスマイリーは、刑務所の中でカーラと対面し、亡命するよう説得にあたる。はじめは事務的にいつもの論をくりかえしていたスマイリーだったが、その口調は、デリーの暑さと自己の任務の重さへの緊張感に耐え切れず、次第に熱っぽさをくわえ悲壮味をおびていった。しかしスマイリーが懇願すればするほど、頼りない小男の外見とはうらはらに、カーラの沈黙はかたくなになる。

そんな雰囲気に耐えられなくなったスマイリーは、ついに己が空隙をカーラの前にさらけ出してしまった。妻のアンにもらった金のライターを、<ジョージへ、アンより愛をこめて>と刻まれたライターを、煙草といっしょにカーラに向けて差し出したのである。当時、スマイリーは妻のアンと本気で別れようと考えていた。そんなスマイリーは、知らず知らずのうちに自分の境遇とカーラの境遇を入れ替えて、自分自身を誘導尋問し始めていたのである。人間としての弱さをさらけ出したスマイリー。だがカーラは一言も発しないまま、スマイリーのライターをポケットに入れて、粛清が待つはずの本国へと帰還していった。しかし、カーラは死ななかった。むしろかつてないほど強大な力をもつ、ソ連諜報部の工作指揮官として甦ったのである。そしてカーラは、英国諜報部の中枢に潜り込ませた“もぐら”を動かし、組織に壊滅的な打撃を与えるとともに、スマイリーと妻との仲をも引き裂いたのである。

一敗地にまみれたスマイリーが、絶望の淵から立ち直り、サーカスの再建とカーラへの反撃を開始するのは、二作目の『スクールボーイ閣下』である。香港からソ連にのびた地下資金の金脈ルートを探って、中国人ドレイク・コウの正体をいぶり出そうとするスマイリーらの活躍は、三部作の中でも圧巻である。質量ともに「究極のスパイ小説」といえよう。

そして迎えた最終編『スマイリーと仲間たち』では、ついに宿敵カーラの驚くべき秘密を探り当て、最後の錠を叩き壊した。ひとりの人間としての弱みをみせたカーラにたいして、スマイリーはその長い闘いのうちに、はじめてカーラにたいして優位にたつ。じつにスマイリー三部作とは、人間の心の深層部を探る壮大なミステリとも言えるのである。

ジョン・ル・カレ著
「ティンカー・テイラー・ソルジャー・スパイ」
「スクールボーイ閣下」
「スマイリーと仲間たち」いずれもハヤカワ文庫

2005年06月03日

もっとも危険なゲーム

ビル・ケアリvsフレデリック・ウェルズ・ホーマー

対決の地はソ連国境にもほど近いフィンランドの山中。古びた12番径のショットガンを構えるビル・ケアリは、元英国秘密機関員の過去がある、言うなれば人殺しのプロだった。一方アメリカ人の富豪フレデリック・ウェルズ・ホーマーは、パーディの.300マグナム高性能ライフルを愛用し、これまであらゆる危険な動物と対決しながら、世界の主な猟場を巡ってきた狩猟のプロである。

彼ら二人の間には格別なウラミつらみがあるわけではない。あるのはただ、純粋に、自己のもつ技量を見極めてみたいというスポーツマン的な願望で、それが彼らを対決の道に歩ませた。ただしその試合は、互いの命を的にかけた、もっとも危険なゲームには違いないのである。

では、二人が最初に互いの腕前を認識することになる静かな湖畔へと行ってみよう。

まず小手調べには、水辺から30ヤードの距離に放った枯れ木である。ここでケアリはなんと西部劇でおなじみの、「日暮れまでに町を出ろと言っといたろう」という懐かしの台詞を引っ張りだしてきて、的を射つ。けれども銃口が跳ね上がることに気をとられ過ぎたケアリの散弾は、標的を大きく外してしまった。しかし見物していたホーマーは、彼の距離の取り方を見て、ケアリに射撃の経験が豊富なことを見抜く。お次はホーマーの番だ。彼はケアリのショットガンを借り、空中に投げ上げたあき罐を、しごくあっさりした射撃スタイルでこともなげに射ち落とした。

ホーマーの腕前をもっと見たくなったケアリは、彼の銃を取り出すように言う。今度は空中のあき罐を、一発玉のライフルで射たせてみようというのである。これは映画のように簡単にはいかない。しかもケアリが散弾でぶっとばして急に方向をかえたのを、一発玉で狙うのである。そんな名人は百万人に一人いるかいないかだ。だが無表情にボルトを一往復させたホーマーは、ケアリが空中で射った罐をほんの半秒ほど追跡して射ち当てた。まさに百万人に一人である。しかし、とっさに銃を肩から腰に移したケアリは、見事な腰だめで、そのあき罐を射止めた! 顔を見合わせて笑いあう二人。「あんなすばらしい腰だめは初めて拝見しました」「パーティー用のトリックですよ」そんな会話をかわすうちホーマーは、ケアリがかつてどんな危険なパーティーに参加していたか気付いてしまったようだ。

さていよいよクライマックス。戦時中の裏切り者を追い詰めようとしたケアリに、森の中から三発の曳光弾が襲いかかった。敵に雇われたホーマーが、勝負を挑んできたのである。考えられる獲物をすべて試みたすえに発見したもっとも危険な獲物。それは対等に銃を持った人間だ。挑戦を受けたケアリは、うっすらと霧のただよう森に踏み込んでいったが、一発の銃弾に腰をえぐられてしまう……。

ギャビン・ライアル著「もっとも危険なゲーム」ハヤカワ文庫

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