2007年04月16日

深夜プラス1

「地獄の読書録」小林信彦より
 晩春の候、デートの相手もなく、ひとり寂しくモノスゴク過ごしているかたに、“コレ!”というようなおもしろい小説を推せんしよう。
「深夜プラス1(ワン)」というのが題名である。なんだか、とっつきにくいタイトルだが、まあ、これがムチャクチャにおもしろい。
 スパイ小説? ちがう。
 本格物? ちがう。
 強いていえば、“冒険小説”とでもいおうか。サスペンス小説というより、古めかしい言い方がピッタリくる。「英国推理作家協会最優秀作品賞」を得た、なんてことは、どうでもいいが、最近、これほど、ハラハラドキドキさせたミステリイは珍しい。
 ケインという名の男が、友人に頼まれて、マガンハルトという大金持ちを、リヒテンシュタイン王国までとどけることを引き受ける。リヒテンシュタインは、先日、テレビの「ナポレオン・ソロ」でも舞台になっていたが、欧州一の小国である。×月×日までに、大金持ちはそこにたどりつかないと、会社を他人に奪われてしまう。
 そんな金持ちなら、ヘリコプターで、さッと連れてっちまえばいい、とお考えになるだろう。さ、そこだ。実は、この金持氏、婦女暴行のあらぬ疑いをかけられて、手配中の身なのである。
 この罪は、どうやら“敵”のデッチあげらしい。“敵”の目的は、マガンハルトの到着を妨害し、会社を乗っ取ろうというわけだ。地中海からリヒテンシュタインまで、“敵”はいろいろなワナを張っている。そのワナをくぐって、ケイン、マガンハルト、秘書のヘレン、それにアル中のガンマン、ハーベイの四人が一台の車で突っ走るというわけだ。
 ケインは対独抵抗工作の経験がある英国人で、頭が切れる。ピストルの方はハーベイが引き受け、欧州きっての殺し屋チームと対決する。
 一口にいってしまえば、これは「駅馬車」型の物語である。しかし、全篇のタッチはハードボイルドで、映画「プロフェッショナル」に近い味がある。
 途中に出没する敵味方の人間像もすこぶるおもしろく、なかでも、スイスに居住している情報屋の怪老人など、大衆小説のダイゴ味を味わわせてくれる。
 欠点を一つだけ指摘すると、“敵”の中心人物の正体が割れるのが、いささか早すぎることだ。もっとも作者ギャビン・ライアルは、そんなことより、西部劇とスパイ小説をまぜたようなスリルの盛りあげに重点をおいたのだろう。

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