2005年06月03日

もっとも危険なゲーム

ビル・ケアリvsフレデリック・ウェルズ・ホーマー

対決の地はソ連国境にもほど近いフィンランドの山中。古びた12番径のショットガンを構えるビル・ケアリは、元英国秘密機関員の過去がある、言うなれば人殺しのプロだった。一方アメリカ人の富豪フレデリック・ウェルズ・ホーマーは、パーディの.300マグナム高性能ライフルを愛用し、これまであらゆる危険な動物と対決しながら、世界の主な猟場を巡ってきた狩猟のプロである。

彼ら二人の間には格別なウラミつらみがあるわけではない。あるのはただ、純粋に、自己のもつ技量を見極めてみたいというスポーツマン的な願望で、それが彼らを対決の道に歩ませた。ただしその試合は、互いの命を的にかけた、もっとも危険なゲームには違いないのである。

では、二人が最初に互いの腕前を認識することになる静かな湖畔へと行ってみよう。

まず小手調べには、水辺から30ヤードの距離に放った枯れ木である。ここでケアリはなんと西部劇でおなじみの、「日暮れまでに町を出ろと言っといたろう」という懐かしの台詞を引っ張りだしてきて、的を射つ。けれども銃口が跳ね上がることに気をとられ過ぎたケアリの散弾は、標的を大きく外してしまった。しかし見物していたホーマーは、彼の距離の取り方を見て、ケアリに射撃の経験が豊富なことを見抜く。お次はホーマーの番だ。彼はケアリのショットガンを借り、空中に投げ上げたあき罐を、しごくあっさりした射撃スタイルでこともなげに射ち落とした。

ホーマーの腕前をもっと見たくなったケアリは、彼の銃を取り出すように言う。今度は空中のあき罐を、一発玉のライフルで射たせてみようというのである。これは映画のように簡単にはいかない。しかもケアリが散弾でぶっとばして急に方向をかえたのを、一発玉で狙うのである。そんな名人は百万人に一人いるかいないかだ。だが無表情にボルトを一往復させたホーマーは、ケアリが空中で射った罐をほんの半秒ほど追跡して射ち当てた。まさに百万人に一人である。しかし、とっさに銃を肩から腰に移したケアリは、見事な腰だめで、そのあき罐を射止めた! 顔を見合わせて笑いあう二人。「あんなすばらしい腰だめは初めて拝見しました」「パーティー用のトリックですよ」そんな会話をかわすうちホーマーは、ケアリがかつてどんな危険なパーティーに参加していたか気付いてしまったようだ。

さていよいよクライマックス。戦時中の裏切り者を追い詰めようとしたケアリに、森の中から三発の曳光弾が襲いかかった。敵に雇われたホーマーが、勝負を挑んできたのである。考えられる獲物をすべて試みたすえに発見したもっとも危険な獲物。それは対等に銃を持った人間だ。挑戦を受けたケアリは、うっすらと霧のただよう森に踏み込んでいったが、一発の銃弾に腰をえぐられてしまう……。

ギャビン・ライアル著「もっとも危険なゲーム」ハヤカワ文庫

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